2011-03-03 に発売されたアンソニー・ギャロのフラッグシップ・スピーカー Reference 3.5 を昨日・今日と試聴してきた。場所はオーディオ・スクエア 相模原店。二言で言えば、高品質だけど掴みどころがない、というのが感想。
Anthony Gollo Reference 3.5
Reference 3.5 は、かなり変わった形をしている。
スピーカー上部の「二つの球」とその間にある「筒」がツイーター。指向性は 300 度と非常に広い。前面の写真から見て分かる通り、ウーファーが前から見えない。ウーファーをスピーカーの片側面に配置するサイド・ウーファーを採用している。このサイド・ウーファーは 25 cm のウーファーと新型ミッドレンジ (?) のデュアル・ウーファーになっている。普段使いでは一つのウーファーしか動かないけれど、専用アンプを追加することで二つのウーファーを動かせる様になり、より低音が出せる (と話に聞いた)。今回の試聴では、専用アンプがなかったので一つのウーファーでの試聴にとどまった。ウーファーが外側に向くようスピーカーを配置するのがメーカー推奨。
なお、Reference 3.5 からスピーカー下部にスパイクが付かなくなった。下面を触ってみると、ゴムの様な軟らかい素材が使われていた。
試聴 -- セッティング
試聴には複数のアンプを用いた。アンプごとの感想は後述するとして、全体の感想を最初に書く。
Reference 3.5 は非常にセッティングの影響を受け易いスピーカーだった。それが、冒頭の「掴みどころがない」という感想に繋がる。
アンプを変えると、ガラリと雰囲気が変わる。変化の度合いが大きい。これはスピーカーが非常に素直なことの現れだと思う。スピーカーにマッチするアンプをあてがえば、極上の音楽が聞けそう。逆に、アンプが合わなければ -- 例えば、今まで使っていたアンプをそのまま使おうとすると -- スピーカーの実力を引き出すのは難しそう。
スピーカーの下に敷くボードにも敏感。今回は三枚のボードを使ったけれど、厚いボードの方が低音の量感・スピード感が高くなった。一番厚いボードはバック工芸社の Basic-Stage1 を使った。
スピーカーの振り角度も重要。スピーカーを内振りにすると、ボーカルの質感が上がり、低域もキレ味が増した (ウーファーは外向き)。ツイーターの指向性が 300 度もあるから、スピーカーの向きなどに左右されないと思っていたのだけど予想は裏切られた。おそらく、サイド・ウーファーの影響が小さくないんだと思う。
ウーファーの向き (外向き・内向き) も変えて試聴してみた。最初はウーファーを外向きにした。これはメーカー推奨の置き方。音場が左右に大きく広がる。スイート・スポットも広く、スピーカーの外側に立っていても音楽が楽しい。次にウーファーを内向きにした。音場は狭くなり、落ちついた音になった。スイート・スポットは狭くなり、スピーカーの外側に立っていたのでは音楽が楽しくない。
では、絶対的に外向きが良いのかと問われれば答えは「否」。アンプがスピーカーにマッチしない場合など、音場が広くなると逆に低音等が弾まなくなり、音楽全体が楽しくなくなることがある。そういう場合、あえて内向きにして、音を集める方が「まだ音楽が楽しい」。「外向き絶対」と最初から決めてかからない方が良い。蛇足ながら、そういう場合はスピーカーに合ったアンプに買い替えを検討する方が良いかもしれない。
今回の試聴では、スピーカーから壁までの距離・スピーカー間の距離を変えなかった。上記の経験から、これらの距離のセッティングをつめると更に音が良くなることが予想される。
Anthony Gallo Reference 3.5 を買うなら、スピーカー・セッティングを十分に練る「覚悟」が必要だと思う。ただし、必要なのは「覚悟」であって「技術」ではない。覚悟さえあれば、何年かけてでもセッティングを詰めて、そのうち技術も身につく。そのかわり、覚悟もなしにこのスピーカーを買うと手痛いしっぺ返しを喰らう。
試聴ディスク
十枚以上のディスクを聞いたけれど、全てにコメントを付けるのは大変なので三枚に絞って感想を書く。
一枚目はクラシック。ブレンデルとマリナー指揮アカデミー室内管弦楽団の演奏で、モーツァルトのピアノ協奏曲第 23 番。ピアノとオーケストラを聞く (一枚組の CD が見つからなかったので、リンク先は全集版)。
二枚目はミュージカル「Wicked」から「Defying Gravity」。二人の独唱とコーラス、アンサンブルを聞く。
三枚目はヨーロピアン・ジャズ。ヘルゲ・リエン・トリオの「SPIRAL CIRCLE」から「Take Five」。ピアノ、ベース、ドラムを聞く。
試聴と感想
4 つのアンプを切り替えて聞いたので、アンプごとの感想を書く。
Soulnote sa3.0
ウーファーは内向きで聞いた。このアンプを使った時のみ、専用試聴室の外で聞いた。
モーツァルトのピアノ協奏曲第 23 番を聞く。オーケストラは大きなスケールで鳴り、低音もしっかり・クッキリ出ている不足感がない。ピアノの沈み込む様な低音が非常に良く出ていた。100 万円以下のスピーカーでこれ程ピアノを鳴らしたスピーカーは、DALI の Helicon 400 MK2 以来二台目。
スピーカーが良くなったのは、聞いた部屋が専用試聴室よりも狭いからでは? という疑問もあり。それにしても、スピード感のある素晴らしい音楽を堪能できた。
PhaseTech CA-3II + VTL IT-85
VTL はドイツのメーカー。現在、日本では輸入が中止されている。
このアンプを使った時のみ、スピーカーのウーファーの向きを外向き・内向きに変更した。まず最初に外向きにきく。スケールは大きいが、低域がボヤっとしてる。「Take Five」から全体的にスピード感・アタック感が抜け面白味がない。ピアノの低音もいま一つ伸びきらない。内向きに変えると、左右の音場は狭くなったものの、音が全体的に整った感じ。不満は残るものの、「外向き」に置くより音楽が楽しくなった。以降、内向きセッティングのまま試聴を続ける (だって、スピーカーの位置を左右いれかえるの大変なんだもの orz)。
PhaseTech CA-3II + 自作真空管アンプ
VTL IT-85 が 50 万円台のインテグレートッド・アンプなのに対して、こちらはキット屋の 300B のシングル・アンプを十万円程度で組んだもの。意外や意外、こちらの方が VTL よりも楽しく音楽が聞けた。
全体的な質は VTL の方が上なのだけど、「Defying Gravity」のボーカルや「Take Five」のピアノが前にグイグイ出てくる感じで、質の低さを補なって音楽が楽しい。
Luxman C-800f + Luxman M-800A
スケールがとても大きく、低域もしっかりと出た。実は隣に B&W の 802D が置いてあったのだけど、てっきり 802D が鳴っているものと勘違いをした。ペアで 698,250 円の Reference 3.5 がペアで 1,680,000 円の 802D を間違うほどの鳴りっぷり。推して知るべし。
このシステムでは「Defying Gravity」のみを試聴。エルファバとグリンダの二重唱が素晴らしい。最初の台詞にちょっとホール・トーン (っぽいエフェクト?) が入っているのだけど、それを明瞭に聞くことができた。楽曲のラスト。市民の「魔女よ! 落ちろ」という大合唱の中、魔女エルファバが空へ翔け上がる様に別旋律を歌う様が非常に美しく表現されていた。下手をすると大合唱の中にエルファバの声がうずもれて、魔女墜落な印象を受ける曲なのだけど、合唱とエルファバの音が奇麗に分離されながらも、合唱もよく聞こえ、エルファバの声もよく通る、最高の出来だった。
全体の感想
まずはアンプ選びが大変なスピーカー。買ったら買ったで、セッティングに苦労するスピーカー。
その代わり一旦要領を得れば、高域はなめらか、低域はハイスピードな上に量感あり、ボーカルのニュアンスも良く出て、オーケストラのスケール感も十分、ピアノも過不足なく鳴らす類い稀なスピーカーを手にしたことに気付くことになると思う。「並」に鳴っている二百万円台クラスのスピーカーに匹敵する高スピーカーだと感じた。
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