AMN のキャンペーンで COURRiER Japon 10 月号と「バイラル・ループ」を献本頂いた。COURRiER Japon の感想は過去エントリーをどうぞ。本エントリーでは、「バイラル・ループ」の感想を書く。
作者 Adam Penenberg
作者のアダム・ペネンバーグとは、一体どんな人だらう。その答えは「訳者あとがき」にあった。映画「ニュースの天才」(Shattered Glass: 2003) をご存じかしらん? その中で「不正」を暴いた人こそ、アダム・ペネンバーグその人だった。
少し話が逸れるけど、「ニュースの天才」の話をしませう (注: ネタバレを含む)。
「ニュースの天才」は 1998 年に実際に起きた事件を、スター・ウォーズのアナキン・スカイウォーカー役で有名になったヘイデン・クリステンセンが主演で映画化されたノンフィクション映画。
あらすじ
アメリカで最も権威のある政治雑誌とされる「The New Republic」。そのスタッフ・ライターにスティーブン・グラスがいる。彼は何十本ものスクープを連発した。しかしある日、「Forbes」誌の記者が彼の記事に疑惑を抱く。この記事は本当か? 裏付けは正しいのか? 調査、取材、事実関係の整理。彼はついにその記事が捏造であると確信を持つ。そして考察。「果たして捏造はこの一本だけだろうか?」。再び調査、取材、事実関係の整理。。。結論。グラス氏の記事で「捏造」は一本だけではない。フォーブス誌の追求を受けて、ニュー・パブリック誌自身もグラスの記事の自己検証を始める。そしてグラスの書いたスクープのうち 20 本以上が捏造であったことが判明する。
アダム・L・ペネンバーグ
この事件で、グラスの記事に疑惑を抱き調査を行なったフォーブス誌の記者こそが、本書「バイラル・ループ」の作者アダム・L・ペネンバーグ。その調査力と洞察力は半端ない。元が記者なだけあって構成力も素晴らしい。各章が見事に絡み合って、各事例を紹介する構成は思わず引き込まれる。
バイラル・ループ
閑話休題。バイラル・ループの話に戻ろう。
バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある
アダム・ペネンバーグ 中山 宥
講談社 2010-09-25
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Viral Loop (バイラル・ループ)。ウィールス (Virus) が感染するかの様に「あっという間に急成長」することから名付けられた用語。バイラル・ループの理論は簡単。友達が友達を誘う。誘う友人の数と勧誘成功率をかけたものをバイラル係数と呼び、バイラル係数が 1 以上だとバイラル・ループが発生する。
難しいのは、どうやってバイラル係数を 1 以上にするサービスを作り上げるか?
本書は、バイラル係数を 1 以上にしてバイラル・ループを引き起こした「実例」を紹介し、彼らが成功したエピソードを紐解く。この実例の中には、ネットのサービス以外の例も含まれているのだから面白い。バイラル・ループが取り上げた実例は次の通り:
- プロローグ: HOT or NOT!
- 序章: オバマ大統領の大統領選
- 第 1 章: タッパーウェア
- 第 2 章: ウェブ・ブラウザー (Mosaic と Netscape)
- 第 3 章: Ning
- 第 4 章: Hotmail (現在は Microsoft に買収されて Windows Live メールの一部になった)
- 第 5 章: デジタル映画
- 第 6 章: メントスとコカ・コーラ
- 第 7 章: eBay
- 第 8 章: PayPal
- 第 9 章: Flickr, MySpace, YouTube
- 第 10 章: Bebo (AOL に買収されてサービスは瀕死な SNS)
- 第 11 章: Facebook
- 第 12 章: Goole Adwords, Google AdSense
いくつか消えてしまったサービスもある。それは買収先が舵取り失敗したからであって、本書は買収されるまでのサクセス・ストーリーをつまびやかにしているのでご安心を。また、本当にバイラル・ループに乗り損ねた例も載せている。「あそこでこのサービスを止めなかったのが敗因だった」との弁を聞けるのも良い。そう、成功例だけで塗りつぶしていないのが本書の特徴の一つと言える。
例えば、第 6 章でメントス社がすぐにバイラル・ループに乗って売り上げを伸ばしたのに対して、コカ・コーラ社の反応が遅れた点などは良い比較例で面白い。
また、各章独立しているものの、前の章の人物が係わる事例を紹介しているのも面白い。一番の例は、第 7 章の eBay と第 8 章の PayPal。2 つのサービスは別々のバイラル・ループを作り上げ、サービスを大きくしていったが、(ご存じの通り) PayPal は eBay に買収される。PayPal 買収劇に、第 7 章で eBay を作り上げたオミダミアが現れないのが面白い。そこには第 7 章で eBay に呼ばれたメグ・ホイットマンが (強敵として) 現れる。
第 1 章のタッパーウェアのように、ネットのない時代でもバイラル・ループが起きていた事例は興味深い。しかし、本書の作者ペネンバーグの筆の上手いところは、第 4 章の Hotmail で投資家のドレイパーが「タッパーウェア」の話を思い出し、Hotmail をバイラル・ループに乗せるアイデアを持ち出すところ。よくこんなことを調べたものだと驚くと同時に、昔のエピソードが絡み合う面白さを楽しめる。
こんな面白さが本書にはちりばめられている。アンドリーセンは第 2 章で Mosaic と Netscape を作った後、第 3 章で Ning を作る。第 8 章で PayPal を作ったレブチンは、(ライバルとして) 第 11 章でスライド社を作る。といった具合。
あとがき
「バイラル・ループ」は三つの点で楽しめる。まず第一にバイラル・ループを理解する上で重要な事例集であり、第二に失敗例も盛り込んだ反面教師。第三にエピソードがすこしずつ他のエピソードに絡むノンフィクションゆえの物語的な面白さ。特に第三の点に関しては、作者アダム・ペネンバーグの腕が鳴っている。
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