先のエントリーで、日本人がよく間違える英語を解説した新書「猫舌流 英語練習帖」を紹介した。
「猫舌流 英語練習帖」は主に「小説」を読む時に間違え易い英語表現を中心に解説していた。
本エントリーで紹介する「科学論文の英語用法百科」は科学論文を書く人向けの参考書。
科学論文の英語用法百科〈第1編〉よく誤用される単語と表現
グレン パケット 理論物理学刊行会 Glenn Paquette
京都大学学術出版会 2004-09
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京都大学学術出版会が出版。ページ数は 688。
作者のグレン・パケット (Glenn Paquette) 氏は京都大学基礎物理学研究所 (湯川記念館としても知られる) の研究員。基礎物理学研究所が出版する物理学論文誌「Progress of Theoretical Phisics」において 9 年間、英語論文の校閲をしてきた実積がある。本書は、約 2,000 本という (日本人が書いた) 英語論文にチェックを入れてきた経験を集体成したもの。
各章ごとに、誤り易い「表現」が取り上げられている。章の数は 133 にのぼる。誤用の例文が多く示されていて、何故それが誤りなのかを丁寧に解説している。
例を 2 つほど挙げてみる。
1 つ目は「Since」(Chapter 115, p.550)。本書は 学術論文においては、接続詞 since を because の同義語として用いるには注意が必要
と言う。何故か? 長々と説明が続くが、乱暴にまとめると because の同義語として用いられていることが明らかな場合でも、since は必ず時間的なニュアンスを伝える
ため。本書は 6 ページ使って、since の不自然な用法や正しい用法を説明する。
2 つ目は「on the other hand」(Chapter 91, p.431)。英和辞書をひくと「一方で」と訳が出るこの成句。本書は 留意すべき点が二つある
と言う。その一つは、on the other hand がつなぐ文の主題は同じでなければならないということである。もう一つは、これらの文は、その主題について異なった見方を示さなければならないということである
。日本人は話題を変える時にさえ「一方で」を使ってしまうが、「on the other hand」の意味は日本語の「一方で」よりも狭く限定されている。本書が on the other hand に割くページ数は 13。それだけ日本人が誤って使うということを示している。
ぼくは since も on the other hand も、間違った用法で使うことが多かった。上の例を見ても分かる通り、本書は、科学論文だけでなくビジネス英語でもやらかす間違いを指摘しているので、英文を本気で書くつもりの人は買っおいて損はない。
続編は?
本書のタイトルに「第 1 編」とある。序文には、「科学論文の英語用法百科」について全五巻での完結を目指していると記されている。その内訳は次の通り:
- よく誤用される単語と表現
- 冠詞、前置詞、代名詞
- 動詞
- 文法、構文、言葉遣い
- 物理学、数学における特別な問題
本書の第 1 版は 2004 年に発売された。以降、続編は発刊されていない。本書の質が高いだけに、続編が出版されることを願う。
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