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2012-08-02

制約条件の理論とリーン・シンキング

大学時代にエリヤフ・ゴールドラットの「ザ・ゴール」を読んだ。生産管理に関する内容で、制約条件の理論 (aka. 制約理論, TOC) を物語風にまとめた本だった。キモは生産工程における「ボトル・ネックのみに注力すること」。結果、リードタイムを短くし、在庫を最小限にすることができる。

会社に入ってから、トヨタ式生産方式というのを聞くようになった。日本のトヨタが産んだ生産方式で、短いリードタイム、最小の在庫を持つ考え方という。制約理論と似ているが、どうやら制約理論とは違っているらしい。トヨタ式の生産方式は元々ボトム・アップで出来上がった生産方式であり、それをトップ・ダウンから企業に適用できる様に考えたのがジェームズ・ウォーマックとダニエル・ジョーンズのリーン生産方式となる。詳しくは「リーン・シンキング」にまとまっている。

そういうわけで、両者を読んで一応自分が理解したことをまとめてみる。

ザ・ゴールとリーン・シンキング

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か
ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス
ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス リーン・シンキング 改訂増補版
リーン・シンキング 改訂増補版

ザ・ゴールは制約理論の創始者自身によって書かれた本で、一つの架空の工場を例に制約理論を適用したエピソードで構成されている。

リーン・シンキングは同著者の前著「リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える。―最強の日本車メーカーを欧米が追い越す日」(未読) からリーン・シンキングの肝を紹介した上で、小さな企業から大きな企業に対してリーン生産方式を実践したエピソードをもってリーン・シンキングの理解を深めようとしている。

物語的な面白さではザ・ゴールの方に軍配を上げたい。リーン・シンキングは、ドラッカーがやった様に実企業とのタイアップでリーン生産方式による企業内の摩擦・変化・成功を描くドキュメント性の高さが光る。また、ザ・ゴールは「問題」の焦点に絞っているため (ポイントが明確になる長所の反面)、焦点以外のステップに対して記述が少ない。リーン・シンキングは実企業を例にしているため、他社への働きかけの重要性についても言及が多い。そういう意味で書籍「リーン・シンキング」の方が実践的であると言えそうだけれども、それは本の書き方の問題であって、「制約理論」と「リーン・シンキング」の優劣の差ではない。できることなら、両方の本を読むことが望ましい。

象徴的なエピソード

制約理論もリーン・シンキングも複数のメソッドから成り立っている。共通点は、大量生産方式に比べてリードタイムを短くすることと、在庫を減らすこと。他にも共通点を多く見つけることが出来ることと思う。

両者の違いは「遊んでいる生産者」に関する考え方に現れると思う。制約理論では「遊んでいる生産者のいない工場はダメ」と言う。リーン (無駄を省く) 生産では「遊んでいる生産者がいてはダメ」と言う。

お互いの象徴的なエピソードを紹介してみる。

制約理論

遠足のエピソードを挙げている。手元に本がないので、ここからはぼくの記憶で書く。

クラスで遠足に出かけることになりました。先生は、生徒が自由なペースで進むことを許しました。クラスの中で一番足が遅かったのは D 君です。あまり、先頭と差が開きすぎると先生の目が届かなくなるので、D 君が遅れ気味の時は先頭を止めて休憩に入りました。D 君はなるべく先頭に遅れまいとするので、オーバー・ペースになり休憩時間も周りと比べて短かめで大変です。先生も休憩中に先に行き過ぎた子供がいないかチェックに大変です。結局、全員が目的地に着くのは予定より遅れました。

そこで、今度は D 君をペースメーカーにすることにしました。ルールは一つ。「D 君を追い抜いてはならない」です。他の子供は先生の目のつく範囲で、余った時間を使い遊んだりしています。D 君は自分のペースで歩いて休憩が取れるので、先刻よりも早く目的地に達することができました。周りのクラスメイトは D 君より速く歩けるので、D 君の到着とほぼ同時に目的地に達しました。

これを生産の話にすると、D 君が生産におけるボトルネックになっている。他の生産がどんなに早く進んでも、不可避な生産 (D 君) が遅れていては、製品は完成しない。過剰な生産も行なってしまう。そこで、ボトルネックにだけ目を付けて生産を行なう。ボトルネックで生産が遅れている時は、過剰生産は行なわず、生産者は遊んでいて良い。

ボトルネック部分の生産効率を上げることが出来れば、ボトルネックはボトルネックでなくなる。その代わり二番目に遅かった生産工程が新しいボトルネックになる。生産計画は、新しいボトルネックを基点に作り直される。

ザ・ゴールでは、ボトルネックは人間の生産ラインではなく (それは人手を増やせば改善できる)、処理時間の長い機械と言っている。

リーン・シンキング

ポルシャ社で行なわれた JIT ゲームを紹介する。長文なので、一部ぼくが文章に手を入れた。

A さんから E さんまでの 5 人がいて、折り紙をおる。A さんは B さんと C さんに折り紙を供給する。B さんは小さな箱を作る。C さんは大きな箱を作る。B さん、C さんは作った箱を D さんに渡す。D さんは大きな箱に小さな箱を入れる。完成した箱は E さんに渡される。ゲームの参加者は自分のペースで働く。この工程で一番作業量が多いのは D さん。D さんの前に箱が高く積まれる。

更にルールを難しくする。三色の折り紙を用意する。顧客のオーダーにより、作る箱の色を変える。顧客がオーダーを変えるごとに、欲しがらない色の箱を横によけておく必要が発生する。

そこで、プルシステムの採用を勧める。下流工程の人から要求 (pull された) 時だけ、一度に五個の箱だけを作る。すると、生産がよりスムーズになった。ロットサイズを減らして、最後は箱の滞留が全くない滑らかな流れになる。この方式になら、顧客が色を毎回ランダムに変えても混乱は起こらない。

ボトルネックは D さん。プルシステムを導入する前に、改善方法を訊かれたポルシャの人達は D さんの工程に人を増やす回答を出す。しかし、その方法では折り紙が三色になった場合に (やはり前と同じ様に) 余剰在庫が D さんの工程の前に溜まってしまう。

ボトルネックにプルシステムを導入し、ボトルネック前の余剰在庫を減らすことは制約理論と似ている。けれど、そのプルシステムを全ての工程で取り入れている点に違いがある様に思う。また、この例では記述されていないけれども、余剰となった人員 (= 遊んでいる人員) は改善部門に回して、更なる改善に力を入れる。としている点でも無駄がない。

まとめ

ボトルネックを基点に生産計画を立てる制約理論。ボトルネックを含めて、プルシステムで生産をスムーズに行なうリーン・シンキング。という印象を受けた。どちらの生産方式においても、ボトルネックがキモになっており、改善することが推奨されている。

ケースによって制約理論とプルシステムのどちらも有効な場合があるかもしれないし、片方が優れている場合もあるかもしれない。大量生産で在庫が余っている場合には、少くとも片方。できれば両方の方式を勉強しておくと良いと思った。

最後に「リーン・シンキング」で印象的な言葉があったので、それを引用して結びとする。

長期的視野、技術的な名人芸、そして成功しようという情熱的な意志、これらの三要素があることが企業のリーンへの転換に必須条件である。

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