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2010-12-07

Xair ブロガー・ミーティングに参加した

フェラーリをデザインした日本人・奥山清行氏が稲葉製作所とコラボレーションして、次世代オフィス・チェア Xair を開発した。販売一周年を記念して、ブロガー・ミーティングが開かれたので参加してきた。概要は以下の通り:

場所は Creative Box 社の一室をお借りした。Creative Box 社は日産の関連会社で、主にコンセプト・カーのデザインを手がけている。

奥山清行氏の略歴については、Wikipedia にちゃんとしたページが出来ているので、そちらを参照してもらうのが一番と思う。ほとんどの人には、「イタリア人以外で初めてフェラーリをデザインした男」と言えばその凄さは伝わるかな。

イベントの最後には、奥山氏とのツーショット写真を撮ってもらえた。

奥山清行氏とツーショット

奥山氏の江戸の職人気質?

イベントは、奥山氏の公演がメインだった (その後、質問会を兼ねた懇親会)。奥山氏の話を聞いて、奥山氏は江戸時代の職人気質 (かたぎ) みたい、もしくは宮大工みたいな人だと感じた。自分が作る作品に対するこだわりが半端ない。例えば、今の奥山氏は仕事を選べる立場にあるという (まるで売れてる映画スター!!)。その際、3 つの前提をクリアしないと仕事をしないという。その三つの前提とは

  1. 自分が好きであること
  2. 自分が学べること
  3. 自分が求められていること

特に、自分が好きで学べる仕事であっても、大企業のオファーで「本当は自分の意見が求められていない」場合などは断るという。また、前提をクリアしたらもう一つ条件がある。

  • 製造と販売の現場を見せてもらう

稲葉製作所では工場内に、スローガンがあり、定期ミーティングの場所が設けられていた。特に奥山氏の感銘を誘ったのは、工場内でアルミ・ダイキャストを作っていたこと。アルミは家具で使うと見た目が良いけれど、加工が大変。だから、(安上がりに) アルミ・メッキにするか、外部の専門の会社に依頼して作ってもらう。ところが、稲葉製作所は工場内にアルミを扱う部所があった。固定費・教育費・人件費を考えるとバカにならない。でも、そういう技術を継承していくことは、会社として大きな強みになる。

奥山氏は稲葉製作所を評して、再三、実直な技術を持っていると繰り返した。また、「その事実が知られていない」と繰り返した。

そして、こういう会社にこそ、自分が働く意義があるのではないか? と感じたらしい。大量生産の時代・場所に「技術」を持ち込んだ製品を作り出したいと思ったらしい。奥山氏と稲葉製作所のコラボレーションが始まった。

奥山氏の幅広い視点

Xair 前面

奥山氏は次世代オフィス・チェアーをデザインするに当たって、まず買い手を見なかった。買い手よりも先に、稲葉製作所というブランドを見た。

知っての通り稲葉製作所は「倉庫」を作っている会社というイメージが先行している。実際は、(個人向けではなく) 会社向けに家具類を随分前から発売しており、ノウハウも技術もある。さて、そんな会社が一般向けに新機能満載の椅子をリリースしたら、客はどう反応するか? おそらく買わない。それが、どんなに新機能満載でも。理由は、稲葉製作所ブランドとぼく達一般人の間に、「稲葉製作所は家具を作れる会社」という「信頼関係」がまだ築かれていないから。

奥山氏は考える。稲葉製作所は実直な会社。だから、作る椅子も既存の技術をより高いレベルで実現したものにして売り込むべき。新機能は入れるが、目立たないようにする。

物作りをする時、ぼくはついつい新機能に目が行くし、そういうマーケティングを多く見てきた。しかし、デザイナーが、まず会社のブランドを研究し、そこから作るべき商品のコンセプトを考える奥山氏の視点の広さは初めて見た。正に目から鱗が落ちる思いだった。

蛇足ながら、奥山氏は自分がデザインした商品は売れて欲しいと言っていた。売れてこそ、デザイナーとしての冥利がつきると。そのために、TV やマスメディアにも出演するし、今回のブロガー・ミーティングも受け入れて下さったという。口では自分勝手なことを言っているみたいに聞こえるけど、これは奥山氏がマーケティング的な視点も持っていることに外ならない。

「椅子」という製品に対してデザインはもとより、ブランド研究、コンセプト立案、マーケティングと非常に幅の広い視点を奥山氏が持っていることに圧倒された。

X 型のアルミ・ダイキャスト

Xair 背面

写真は Xair の背面。X 型のアルミが肩口から座面の下まで伸びているのが見てとれると思う。強度・使い勝手を考えると、どうしても X 型の背骨を持つ椅子にデザインが落ち着いてしまうらしい。

この X 型アルミ・ダイキャストには特に、奥山氏の思い入れが入っている。まず、見た目に美しくありたい。真っ平にしては素っ気がないので、エッジを入れたい。曲線・曲面を活かしたい (これは曲線・曲面が強度的にも強いという構造的な理由もある)。アルミを磨きで見せたい。素材感を出して、「正直」な物作りな側面を出したい。等々。

特に奥山氏が譲らなかったのは、この X 型を一つのアルミの塊で作ること。「X」という形は、上半分と下半分を作って、繋ぎ合わせて作ることも出来る。そっちの方が技術的に楽だし、実際、稲葉製作所の中の人もそうしたいと言ったらしい。しかし、奥山氏は「繋ぎ」部分に線が入って美しくない。この「X」は Xair の一番重要な部分だから、どうしても一つの塊で作りたいと譲らなかった。

これはぼくの愚考になるけれども、奥山氏は「一つの塊」でやることで、他社に対して、「どうだ稲葉製作所はこれをやる技術を持っているんだ! あなたたちの会社には出来ないでしょう。出来ても、この価格には納まらないでしょう!」と牽制を入れたかったのではないかと思う。そして、稲葉製作所自身に対しても、「自分達の技術の高さを売り込むのは、正にこういった所なんだよ! ぼくのデザインのノウハウ・こだわりを盗んで、もっと良い家具を作っていってよ!!」と訴えているように感じた。

あとがき

今回のブロガー・ミーティングの本題は長くて、正確には「世界的な工業デザイナー奥山清行氏が次世代オフィスチェア誕生にかけた思いを語る!」だった。その題名の通り、Xair の凄さよりも奥山氏の物作りへのこだわりに浸るブロガー・ミーティングだった。

といっても、Xair の紹介も少しはしておきませう。Xair のページへは稲葉製作所のウェブ・ページから辿れるけれど、ちと分かり難いので直リンクを張っておく。

価格はアームレス・タイプが 131,250 円。スタンダード・タイプが 162,750 円。ヘッドセット・タイプが 187,950 円。購入はどこですればいいのかな? ショールームに行けばいいのかな? それとも、ライジングプレミアムショップとかの通販で買うしかないのかな? ちと不明。

最後に奥山氏が言っていた「第二印象」という言葉について。これは第一印象に対して奥山氏が考えた言葉で、「使い続けていたら、発見のあるもの」を指すという。Apple の製品を使っている人なら、この感覚は分かってもらえると思う。こんな細かい所まで凝っていたのね!? と使い続けて数年後に初めて気付く楽しみ。ヨーロッパの製品には、そういう第二印象のある製品が多いという。Xair は座ったままの状態で全ての機能が使えるよう設計されている。(腰を浮かせたりしないでも良い。このアイデアは車のチェアーが座りながら全操作できることから生まれたという) これは使い続けて、気付き、喜ぶ、第二印象的な側面。こういう「第二印象」を意識した製品が日本には少ない。是非、そういう製品を作って欲しいね。日本のメーカーには。

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