印刷業界には、誤植という用語がある。
昔の印刷では、「活字」と呼ばれる字型を組み合わせて「版」を作り、イモ版よろしく大量印刷を行っていた。いわゆる、活版印刷だね。例えば、「Wow」という文章は、「W」と「o」と「w」の三つの活字を、並べて版を作る。この時、木を植えるように活字を並べたことから、この作業を「植字」と言う。
「誤植」とは、植字で誤った活字を並べること (例えば「w」の替わりに「v」を使ったとか) を言う。
さて、現代の印刷に「活字」は使われない。例えば CTP (Computer to Plate) という方法では、電子原稿から直接刷版を作ることができる。この刷版は印刷機に取り付けるプレートで、活版印刷で言えば活字を組み終えた版に当たる。
してみると、現代の印刷物に、「活字」は使われず、従って「植字」作業もないことから、「誤植」という用語も存在しないように思われる。
現代の誤植
けれど、目の前の本に文字の誤りがあれば、ぼくは「あっ、誤植だ!」と叫んでしまう。ちゃんとした本でなくても、手元のインクジェット・プリンターで印刷したテキストに誤りがあれば、それも誤植と呼んでしまいそう。
どうやら、植字という工程がなくとも、誤植という用語を使うことに (ぼく自身は) 抵抗はないらしい。
そこで、Wikipedia を見てみた。
誤植(ごしょく)は、印刷物における文字や数字、記号などの誤りのこと。ミスプリント、タイポ(typo, typographical errorの略)とも言う。
もとは活版印刷の組版で間違った活字を植字してしまうことを指したが、活字以外にも広く用いられる。
誤植 - Wikipedia より引用
「印刷物における文字や数字、記号などの誤りのこと」「活字以外にも広く用いられる」とある。自分の持ってる「誤植」のイメージとぴったり。なんか安心した。
ブログの誤植
ところで、最近は更に誤植の適用範囲が広がっているらしい。例えば、こんな文章。
さっき漢直の方のブログで、「差異」を「差位」とした表記を見ました。でも果たしてこれは誤植なのでしょうか?
「印刷物」ではなく、「ブログ」。つまり、ディスプレー上に表示した電子テキストにも誤植という言葉を使ってる。
でもなぁ。流石に印刷物以外のものに誤植を使うというのは、ぼくの語感になじまない。それは、打ち間違い。入力ミス。タイポ。って言うんじゃないかしらん。
とはいえ、そんな電子テキストを印刷して読んでたら、それは誤植って呼んでしまいそうなのは確か。
印刷物を個人で簡単に作れるようになった為に、その版元のデータにも「誤植」という用語が適用されかけているのかな。誤植という用語の適用範囲がぼやけてきてるように感じる。
でも、そんな用法は、ちょっと、受け入れ難いなぁ。なんか気持ち悪いなぁ。「誤植」は印刷物だけの用語にしたいなぁ。
活字が死んだというのに、誤植は何で益々元気なんだらうね。
「漢直」で検索してここにたどりつきました。
ReplyDeleteclmemo@akaさんは「誤植」の文例の中で触れられている「漢直」はご存じですか? 日本語入力の一つの方法なのですが、「読み」を入力するのではなく、一つの漢字や仮名に対し、一つの「打鍵組み合わせ」をあてていく方法です。つまり、「愛」なら FH、「日」なら KR、「の」なら KD……と、すべての文字について、異なる打ち方をするわけです(漢直のなかにもいくつか方法があります)。だから、憶えるのは大変です。(ご存じだったらすいません)。
つまり、「愛」という文字には、一つの打ち方しかありません。別の言い方をすると、かな漢字変換作業は不要です。この、「一つの字に対し、一つの打ち方」という入力方法について、活字を置いていくようなイメージを抱く方もいます。
とはいえ、もちろん物理的な活字を置いていくわけではなく、キーボードを打って画面に字を出していくわけですから、「誤植」がそぐわないのはまちがいありません。私は活版印刷物の編集にたずさわったこともありますので(古いですね)、わかっているつもりです。
ただ、かな漢字変換にくらべると、漢直(漢字直接入力)は、“比較の上では”、誤入力したときに誤植をしたような「感覚」があります(あくまで、比較の上ですけど)。
「漢直」については、みのりさんという方がまとめられている http://www.geocities.jp/minori632/index.htm などをごらんください。私は http://d.hatena.ne.jp/tastiera/ で、漢直練習のノートを綴っております。
お手数ですが、コメントの削除を、おねがいいたします。
ReplyDelete諏訪
> 諏訪さん
ReplyDeleteコメント削除致しました。
tastiera さん、初めまして。活版印刷の現場に関わっておられたとは... うらやましいです。私も是非その現場を見てみたかったです。
ReplyDeleteさて漢直の件ですが、右サイドバーをご覧下さい。Input with T-Code とあります。このブログは、T-Code (正確にはゆせさんの TT-Code) で書かれています :)
私の場合、誤入力は「誤植」というイメージより「打ち間違い」もしくは「記憶違い」もしくは「運指の失敗」というイメージが強いです。う〜ん、最近、漢字をよく忘れるので、少し eelll で練習し直す方がよいかもしアません。誤入力に対するイメージの持ち方は、個人差があるのかもしれませんね。
(追記) 実を言いますと、このエントリーは、みのりさんの「漢直ノート 誤字と誤用と誤植」のコメント欄での議論をきっかけに書いたものです :p
ギャー、気がつきませんでしたー。
ReplyDelete……。
オシャカサマに説法でしたね……。
活版が消えていくなか、しぶとく携わっていました。植字工さんの現場も見せていただいたりして。段落内で1字減ると、活字をガガガと動かさなければならないので、他の漢字をひらがなに開いて、1行内で字数が変わらないよう工夫することもありました。
では、漢直道に戻ることにいたします。
フフフ。気付きませんでしたか。
ReplyDeleteもしかしたら、T-Code ML でニアミスしているかもしれませんね。
> 段落内で1字減ると、活字をガガガと動かさなければ...
活版の人達は大変だったのですねぇ。英語なら右端を不揃いに出来るので楽ですが。ここが、日本語の大変な所でしょうね :p
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